気まぐれ雑文集

26歳会社員です。思ったことを文章にして、自分の文章力を向上させるためのブログです。よろしくお願いします!

少将滋幹の母を読んで〜子供の頃のほろ苦い思い出〜

谷崎潤一郎作『少将滋幹の母

 

国経が自らの最も大切なものである若く美しく妻を時平に譲ってしまう場面より感じたこと

 

 私の小学校ではポケモンカードが流行っていた。周りの多くの友人が集めているのだから私も集めるのである。しかしお小遣いをもらっているわけでもなかった私は親にねだって時々買ってもらう程度で、それほど頻繁に購入できていたわけではない。それでも一度レアで強力なカード「リザードンlv76」というカードを当てたことがある。今も昔も目立ちたがりで人から好かれたいという気持ちの強い私であったから、このカードを手に入れた翌日から友人に自慢したものだ。

 成績も良くなく、運動もそれほどできず、落ち着きもなかったので、当時私は随分クラスでは浮いた存在で少し疎まれていた。しかしリザードンのカードを持っていると周りはもてはやしてくれて羨ましがってくれた。その時は大変誇らしかったものだ。しかし私がこのカードを持っていた期間はとても短く1週間に満たない。私は誰か友人との交換に出してしまったのである。

 (このカードを持っているだけでこれだけの人が集まってくれる、羨ましがってくれる。ではこのカードを誰か友人に譲ったら?あるいはもっと人気者になれるのではないか?)

 そんな考えが確かにあった。もちろん交換する際に友人はそれなりにいいカードをくれた。しかしやはりこのカードには及ばない。それもわかっていた。人気ものになるために、寂しい学校生活を抜け出すために、私は虎の子のカードを交換に出してしまった。

 人が集まってきていたのはこのカードに集まってきていたのである。カードを持たない私に価値はない。私はその後再び浮いた存在に逆戻りしてしまった。一時的な人気取り、スクールカースト上位の者への迎合。私はその時明らかに優先順位を違えてしまった。譲った翌日には後悔が押し寄せてたまらなかった覚えがある。

 滅多に買ってもらえないカードの中に入っていたレアカード、それは他人にとってどれほどの価値であろうと私にとっては明らかに掛け替えのない存在だったはずだ。また、それを譲ったからといって人気者になれるはずもない。寧ろ大切なものを手放してしまう愚か者として陰で笑われる存在になってしまうだろう。しかし弱者というものはそういう行動をとってしまうものなのだ。

 普段人から構われることも、羨望の目を浴びることも少ない我々弱者というものはあらゆる手段で強者に取り入りたいと思ってしまうのだ。どうにかして強者の仲間入りをしたいと思ってしまうのだ。その過程で自分の本当に大切なものを失ってしまうことがある。愚かで哀れな行為ではないだろうか。

 

 国経が宴席でちやほやされて、いい気分で酔っ払ってしまって、自分の一番大切のもの、もしくは自分の唯一の自慢である美しい妻を時平に譲ってしまう。国経も様々理屈をこねているが要は強者によく思われたい、取り入りたいという気持ちあっての行動だったのではないか。だとしたらその気持ち、すごく分かるなぁ。

 あなたがもし人に迎合してしまうような所のある弱い人間であるなら、そんな経験一度くらいはあるんじゃないかな。

 

PS

因みに「リザードンlv76」は今じゃヤフオクで1万円以上の値がつくレアカード。あの時交換に出さなくても、20年近く大切に持ち続けることができたかは疑問だが、やっぱり手放しちゃいけないものだったな・・・。